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東京地方裁判所 平成6年(ワ)6343号 判決 1994年8月31日

(編集注・仮名)

原告 破産者中島正一破産管財人

弁護士 藤重由美子

被告 オリックス・クレジット株式会社

右代表者代表取締役 丸山博

右訴訟代理人弁護士 林彰久

同 池袋恒明

主文

一  被告は原告に対し、別紙目録記載のゴルフ会員権を表示する会員権証書を引き渡せ。

二  訴訟費用は被告の負担とする。

三  この判決は第一項に限り仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

主文と同旨

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告は、平成五年一二月二一日東京地方裁判所において破産宣告を受けた破産者中島正一(以下「破産者」という)の破産管財人である。

2  破産者は、平成二年一二月一二日、別紙目録記載のゴルフ会員権、すなわち、訴外伊豆観光開発株式会社(以下「訴外会社」という)が経営する天城高原ゴルフコースゴルフ場及びその付属施設の利用権並びに預託金返還請求権を内容とする訴外会社に対する債権(以下「本件ゴルフ会員権」という)を取得した。

3  被告は現在、本件ゴルフ会員権を表章する会員権証書(以下「本件会員権証書」という)を所持している。

4  よって、原告は被告に対し、本件ゴルフ会員権に基づき、本件会員権証書の引渡しを求める。

二  請求原因に対する認否

すべて認める。

三  抗弁

1  本件消費貸借契約の締結

訴外千代田生命保険相互会社(以下「訴外保険会社」という)は、平成二年一〇月五日破産者に対し、以下の約定で、一八〇〇万円を貸し渡した(以下「本件消費貸借契約」という)。

(一) 貸付金元本 一八〇〇万円

(二) 利息 年九・〇〇五パーセント

(三) 弁済方法 平成二年一一月から同一二年一〇月まで、毎月二七日限り元利均等返済の方式により支払う。

(四) 期限の利益の喪失 破産者が返済を遅滞し、訴外保険会社から書面により催告を受けたにもかかわらず、破産者が次の返済期日までに元利金(遅延損害金を含む)を返済しない場合、又は破産宣告を受けた場合、破産者は本件消費貸借契約に基づく債務について当然に期限の利益を喪失する。

(五) 遅延損害金 破産者は、元利金の支払いを遅延した場合、遅延している元金に対し年一四・〇パーセント(年三六五日計算)の割合による遅延損害金を支払う。

2  本件保証委託契約の締結

被告は、平成二年一〇月五日破産者との間で、以下の内容の保証委託契約(以下「本件保証委託契約」という)を締結し、同日破産者に対する連帯保証を承認し、訴外保険会社に対してその旨の通知をした。

(一) 破産者が訴外保険会社に対する債務を履行せず、被告が訴外保険会社から連帯保証債務の履行を請求された場合、被告は破産者に対する通知及び催告を要せずして訴外保険会社に保証履行できる。

(二) 被告が訴外保険会社に連帯保証債務を履行した場合、破産者は被告に対し、保証履行額(代位弁済額)のほか、これに対する保証履行日の翌日から支払済みまで年一五パーセント(年三六五日計算)の割合による遅延損害金を支払う。

3  本件譲渡担保設定契約の締結

被告は、平成二年一〇月五日破産者との間で、本件保証委託契約に基づく求償金債権を担保するため、以下の内容の譲渡担保権設定契約(以下「本件譲渡担保設定契約」という)を締結し、これに基づいて本件会員権証書の引渡しを受けた。

(一) 破産者は被告に対し、本件保証委託契約に基づく求償金債権その他一切の債権を担保するため、本件ゴルフ会員権に譲渡担保権を設定し、本件会員権証書その他名義変更に必要な一切の書類を担保として被告に交付する。

(二) 破産者は被告に対し、本件譲渡担保権設定に関する通知書(以下「本件譲渡通知書」という)を交付するものとし、被告はいつでも右通知書を訴外会社に送付することができる。

(三) 破産者が本件保証委託契約に基づく債務について期限の利益を喪失した場合、被告は、本件ゴルフ会員権を売却処分し又は評価取得することができる。

(四) 破産者は、被告が前項により本件ゴルフ会員権を売却処分し又は評価取得した場合、被告又は被告が指定する者に対し、本件ゴルフ会員権の名義変更手続きを行う。

4  本件ゴルフ会員権を目的とする譲渡担保権についての対抗要件取得

被告は平成六年一月一一日訴外会社に対し本件譲渡通知書(破産者作成の内容証明郵便)を発送し、同通知書は同月一三日に到達した。

5  本件会員権証書の所有権を目的とする譲渡担保権の設定及びこれについての対抗要件取得

本件譲渡担保設定契約は、本件ゴルフ会員権のみならず本件会員権証書の所有権をも譲渡担保権設定の目的とするものである。しかして、被告は本件譲渡担保設定契約に基づき、破産者の破産宣告前に、破産者から本件会員権証書の引渡しを受けたのであるから、これにより、本件会員権証書の所有権に関する譲渡担保権設定についても対抗要件を取得した。

四  抗弁に対する認否

1  抗弁1の事実のうち、本件消費貸借契約の締結日は否認し、その余は認める。

2  同2の事実は認める。

3  同3の事実のうち、本件譲渡担保設定契約の締結日は否認し、その余は認める。

4  同4の事実は不知。

5  同5の事実は否認又は争う。

被告は、本件会員権証書の所有権についても譲渡担保権が設定された旨主張するが、本件会員権証書は本件ゴルフ会員権という権利を表章するものであるから、本件ゴルフ会員権及び本件会員権証書の所有権の双方に関して二個の譲渡担保権の設定があったとの主張は失当である。被告及び破産者には、本件譲渡担保設定契約時、本件ゴルフ会員権と切り離して本件会員権証書の所有権のみを譲渡担保の目的とする意味が全くなかった。

第三証拠<省略>

理由

一  請求原因事実はすべて当事者間に争いがない。

二  抗弁1及び同3の事実のうち、契約締結日以外の部分については当事者間に争いがなく、乙第一号証(成立に争いがない)、乙第二号証のうち契約日以外の部分(成立に争いがない)、乙第二号証のうち契約日部分の記載の存在及び弁論の全趣旨によれば、本件消費貸借契約及び本件譲渡担保設定契約の締結日はいずれも平成二年一〇月四日であると認められる。抗弁2の事実については当事者間に争いがない。

三  被告は、本件ゴルフ会員権に関する譲渡担保権設定につき対抗要件を取得するため、確定日付けある書面である本件譲渡通知書により、平成六年一月一三日訴外会社に通知をしたと主張するが、右通知をもってしては、右譲渡担保権設定を、平成五年一二月二一日に破産宣告を受けた破産者の破産管財人である原告に対抗できないことは明らかである。

四  被告は、本件譲渡担保設定契約は、本件ゴルフ会員権のみならず、本件会員権証書の所有権をも目的とするものであり、被告は右契約に基づき破産者から本件会員権証書の引渡しを受けているのであるから、原告に対して本件会員権証書の引渡しを拒絶しうると主張する。

しかしながら、前記乙第二号証のうち契約日以外の部分においては、第一条に、借主兼担保設定者である破産者は「ゴルフ会員権を」譲渡担保として被告に差し入れるとの記載があり、ゴルフ会員権の表示欄に本件ゴルフ会員権が記載されていて、ゴルフ会員権以外の権利を本件譲渡担保設定契約の目的としたとの記載はないこと、一般に、ゴルフ会員権証書の所有権はゴルフ会員権の移転に随伴して移転すると解するのが相当であり、特段の事情のない限り、ゴルフ会員権と会員権証書の所有権との帰属の分離は認めるべきでないと考えられることから、本件譲渡担保設定契約において担保権設定の対象となっているのは本件ゴルフ会員権のみであると解するのが相当である。

そうすると、本件譲渡担保設定契約が本件会員権証書の所有権をも目的とすることを前提とした被告の主張は理由がなく、被告が原告に対し、本件ゴルフ会員権証書の引渡しを拒絶し得る権限を有すると認めることはできない。

五  よって、原告の請求は理由があるのでこれを認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を、仮執行の宣言につき同法一九六条一項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 大竹昭彦)

<以下省略>

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